マイリストに追加

和書>小説・ノンフィクション恋愛小説ロマンス小説

オリンポスの咎人 I マドックス

オリンポスの咎人 I マドックス


発行: ハーレクイン
レーベル: MIRA文庫mirabooks シリーズ: オリンポスの咎人
価格:800pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆3
◆レビューを書く

¥0サンプル
購入する


解説

 【★サンプル増量作品!】
 かつてギリシャの神々に仕えた暗黒の戦士たちは、パンドラの箱を開けたために神の怒りを買い、世に解き放たれた悪魔をそれぞれの心に閉じ込める罰を与えられた。ある者は“死”、ある者は“苦痛”というように。内なる魔物と闘い続けて数千年がたったある日、城を構える森に不審な侵入者が現れ、“暴力”を宿すマドックスは排除に向かう。魅惑的な女は戦士の宿敵“ハンター”に違いない。ところが予想外にも助けを求められ、マドックスは罠と疑いながらも欲望に屈して城へ連れ帰った。始末するのは女の体を味わい尽くしてからにしよう、と。

抄録

 死は毎晩訪れた。ゆっくりと、激しい痛みをともなって。そして毎朝、マドックスはベッドで目を覚ました。今夜もまた死なねばならないのだという絶望とともに。それが自分にかけら非情なまでの呪いであり、永遠に逃れられない罰だった。
 マドックスは歯に舌を這わせ、刃先で敵の首を切り裂く光景を思い浮かべた。今日という日はすでに終わろうとしている。時間は耳の奥で毒が滴るような不快な音をたて、どこへともなく過ぎ去った。時計の針はくり返される死と痛みをあざ笑うように、刻々と時を刻んでいる。あと一時間もしないうちに、腹部をつらぬかれて最初の激痛に見舞われるだろう。そうなったら最後、何をしたところで、何を叫んだところで、結局は無駄。死は、確実にやってくる。
「何が神々の呪いだ」マドックスはつぶやき、ベンチプレスのスピードを上げた。
「神なんてみんな名ばかりさ」背後からなじみのある声が聞こえたのはそのときだった。
 ジムとして使われている部屋に突然トリンが入ってきても、マドックスはバーベルを上げ下げする手を止めなかった。サンドバッグに始まり、トレッドミル、そして今度はウエイト・トレーニングと、鬱積するいらだちや怒りをごまかそうと、もう二時間も運動を続けている。裸の上半身に浮かぶ汗は輝く無数の粒となり、胸や腕の筋肉を伝うように流れ落ちていた。これだけ肉体を酷使すれば、精神も疲れ果てるのが普通なのだが、荒々しい感情は静まるどころか、闇の部分を増幅させ、いっそう激しさを増している。
「この時間におれに会いに来るなんて賢明じゃないな」マドックスは言った。
 トリンはため息をついた。「邪魔をするつもりはない。だが、問題が起きた」
「だったら自分で片づけたらどうだ」
「それができないからこうして来た」
「どんな問題が起きたのか知らないが、なんとかそっちで対処してくれ。おれはいま手を貸せない」とくにここ数週間は、ちょっとしたことで頭のなかにもやが立ちこめ、周囲にいる者を誰彼かまわず殺したい気分になった。相手が友人であっても例外ではない。いや、友人であればなおさら危険だった。もちろんそんなまねはしたくないし、するつもりもないが、破壊的な衝動の前では意志の力などあまりに無力だった。
「マドックス――」
「もうそろそろだということはおまえもわかっているだろう、トリン」マドックスは低い声をしぼり出した。「おれが手を貸せば、かえって混乱を招く」
 マドックスは自分の限界を心得ていた。その自覚は数千年前から変わらない。そう、神々が自分に課せられるべき役目をある女に託した運命の日から。たしかにあの時代、パンドラは女戦士のなかでもいちばんの力強さを誇っていた。しかし、力強さにおいては自分のほうが確実に上だったし、能力もあった。なのに聖なる箱を守るには充分でないと見なされるとは。地獄でも容易に信用されないような邪悪な悪魔を封じこめた聖なる箱。その箱が壊されるのを、おれがみすみす許すとでも?
 そんな屈辱を味わわされ、不満は一気に爆発した。自分だけではない。いまこの城にいるほかの戦士たちも、まさに同じような思いを噛みしめていた。我々は神々の王の忠実なしもべとして、数々の敵を倒し、徹底して秩序を守ってきた勇敢な戦士だ。聖なる箱の番人には、本来自分たちが選ばれるべきだったのだ。しかし結局、その役目を言い渡されたのはあのパンドラ。それは耐えがたい屈辱だった。
 あの夜パンドラから箱を奪い、純然たる世界に諸悪を解き放ったのは、神々に対する当てつけにすぎなかった。いまにして思えば、なんという愚かな過ちを犯してしまったのだろう。自分たちの力を証明しようとした試みは、見事に失敗に終わった。混乱のなか、肝心の箱は行方がわからなくなり、世界は悪魔を閉じこめるすべを失ったのだ。
 破壊と混乱はすぐにその勢力を増大させ、世界は闇に包まれた。その惨状を見かねた神々の王は、ついに重い腰を上げ、戦士ひとりひとりの心に悪魔を棲みつかせた。
 皮肉な罰だ。傷つけられたプライドを取り戻そうと悪魔を解き放った結果、みずからがその棲み家となって、邪悪な霊を抱えたまま生きつづけなければならなくなったとは。
 こうして、暗黒の戦士たちは生まれた。
 自分に与えられたのは“暴力”だった。その悪魔はいまや肺や心臓と同じように、ほとんど体の一部と化している。もはやこの身は魔物なしに存在することはできず、魔物もこの身を失っては存在することができない。双方はまさに一心同体の関係にあるのだ。
 最初は内側に巣くった魔物の誘惑に屈し、悪事を働くほかなかった。パンドラをこの手で殺すことになったのも、悪のささやきに負けたからだ。マドックスは指の関節が外れそうになるほど強くバーベルを握りしめた。たしかに長い年月を経て、悪意に満ちた衝動はなんとか抑えられるようになっている。しかし、絶え間ない闘いに、張りつめているものがいつ弾けてもおかしくはなかった。
 たとえ一日でも平穏な時間が過ごせるなら、何を差し出したってかまわない。他人を傷つけたいという衝動に支配されることなく、内なる葛藤からも解放されて、死とは無縁の平和な世界で生きられたら……。

*この続きは製品版でお楽しみください。

本の情報

この本を読んだ人は、こんな本も読んでいます

形式

【XMDF形式】

XMDFデータをご覧いただくためには専用のブラウザソフト・ブンコビューア最新版(無料)が必要になります。ブンコビューアは【ここ】から無料でダウンロードできます。
詳しくはXMDF形式の詳細説明をご覧下さい。

対応端末欄に「ソニー“Reader”」と表示されている作品については、eBook Transfer for Readerで“Reader”にファイルを転送する事で閲覧できます。
海外版の“Reader”は対応しておりませんので予めご了承くださいませ。

【MEDUSA形式】
MEDUSA形式の作品はブラウザですぐに開いて読むことができます。パソコン、スマートフォン、タブレット端末などで読むことができます。作品はクラウド上に保存されているためファイル管理の手間は必要ありません。閲覧開始時はネットに接続している必要があります。

詳細はMEDUSA形式の詳細説明をご覧下さい。