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和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・ディザイア

愛の言葉が言えなくて

愛の言葉が言えなくて


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ディザイア
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 アン・マリー・ウィンストン(Anne Marie Winston)
 ベストセラー作家で、“ロマンス小説界のオスカー賞”ともいわれるRITA賞の最終候補者にもなった経歴を持つ。赤ん坊やあらゆるタイプの動物、これから開花しようとするものすべてを愛し、執筆活動以外の時間は、子供たちの運転手や読書をして過ごす。ちょっとした刺激ですぐに踊りだしてしまう陽気な性格。庭の手入れは、雑草で太陽が見えなくなってからするという。

解説

 クロエは、教会の運営アシスタントとして、牧師の父親をサポートする秘書として働いている。躾に厳しい父親の影響と、彼女自身のつつましい性格から、二十六歳の今まで、男性と深いつきあいをした経験がない。あるとき、老朽化した教会の彫刻を修復するため、サッド・シッペンという彫刻修復の専門家がやってきた。作業している彼の、赤銅色に日焼けしたひきしまった上半身に、思わずクロエは目を引きつけられた。彼のほうこそ、まるで彫刻のようだわ。はっとして目をそらし、クロエは自分を叱った。しっかりしなさい。彼は気が荒くて、無節操だという噂なのよ。やがてオフィスに入ってきたサッドを見て、彼女はショックを受けた。三年前、父親に反抗して衝動的に家を飛び出したあの夜、“接触”した、忘れられない相手だったのだ。

抄録

「まあね。だが、人より大きな間違いもある」サッドはつぶやいた。
 二人ともそのまま黙りこんだ。強い日差しを浴びたサッドの横顔をじっと観察しながら、クロエはうながした。「最後まで聞かせて」
 サッドは顔に日差しを浴びたまま話しはじめた。「もうあまり話すことはない。ジーンは糖尿病だったが、僕はそれを知らなかった。彼女は隠していたんだ」座り直したサッドの顔は苦痛でゆがんでいた。「もし知っていたら……」彼はかすれた声で続けた。「僕らは金がなかった。子供が生まれたらもっとお金がいるからと言って、ジーンは医者に行かなかった。ある日僕は彼女がベッドで意識不明になっているのを見つけた。糖尿病の昏睡状態だった」サッドはそこで言葉を切った。ふたたび話しはじめた彼の声は抑揚がなかった。「ジーンは二度と目を覚まさなかった。その晩、彼女は死んだ。帝王切開をしたが、小さな息子も死んでしまった。ジーンの家族は娘を殺したと言って、僕を責めた。僕が殺したんだ。病気持ちのジーンを。彼女は子供を産めないと宣告されていたらしい。妊娠は命取りだって」
「そんなことを思いこんじゃだめよ」クロエはサッドのこぶしを両手で包みこみ、力をこめた。「ジーンが言わなかったのなら、わかるはずないでしょう。心を読めるわけじゃないのよ」
「変だと気づくべきだった。彼女はいつもバッグにクラッカーを入れていたし、しょっちゅうめまいがして……見抜けたはずなのに」
「妊婦なら変じゃないわ。あなたはどのくらい彼女のことを知っていたのかしら。つまり……」クロエにはそれ以上言えなかった。
「僕たちは三度デートをした。長い付き合いじゃなかった。少なくとも僕の中ではそうだったんだ。彼女が妊娠するまではね」
「だから、病気を疑うほど彼女の習慣をよく知らなかったのね。彼女はわざとあなたに隠していたのよ。きっと理由があったんだわ」
 サッドは大きくため息をつき、目をそむけた。「ジーンは僕たちの関係に不安を感じていたんだ。病気だとわかったら、付き合ってもらえないと思ったんだろう。僕は自分の子供を父親のない子にはしないつもりだったのに……決して」
「あなたならそうね。でも、彼女はあまりはっきり考えていなかったんじゃないかしら」
「当惑していたのもあると思う。ジーンが言っていた。十代のときに人と違うのはつらいって。僕は聞き流した。彼女のどこが“違う”のかわからなかったからね。今思えば病気のことを言っていたんだ」
 クロエはサッドの手を撫でた。「痛ましい出来事だったけれど、あなたが悪いんじゃないわ。彼女のご家族だって、あなたに悲しみをぶつけただけよ」
「ああ、そうだろうとも」サッドの口調には苦痛がにじんでいた。「自分を許せないのは、愛していると一度も彼女に言わなかったことだ。彼女はいつも率直でやさしくて献身的だった……」
「きっとあなたの愛を信じていたと思うわ」クロエは安心させるように低い声で言った。
「そうだといいんだが。彼女が亡くなったあと、初めて必死に祈ったよ。僕が結婚した理由を知らずに、彼女は逝ったんだって。僕は自分の子供に父親を知らずに育ってほしくなかったんだ」
“僕のように”
 口に出す必要はなかった。その言葉は二人の間に漂っていた。
 クロエはサッドのほうを向き、彼の広い肩に腕をまわした。おたがいの脚が触れ合い、顔と顔が向かい合った。クロエはサッドの頬にそっと手をあて、やさしく撫でた。「神様は許してくださると思うわ。あなたはもうじゅうぶんつらい思いをしたんですもの。あなたも自分を許さなきゃ」
 サッドは身ぶるいすると、自分の頬を撫でているクロエの手を握った。「君のおかげで元気が出るよ」
 クロエはほほえんだが、こらえようとしても唇がふるえている。サッドが話してくれたことにクロエは深く感動し、重くのしかかっている罪悪感から彼を解き放ってあげたかった。あまりにも熱っぽくなってきた空気を軽くしようと、やさしくほほえみかけながら、クロエは言った。「元気が出るなんて、まるで私はチキンスープみたいじゃないの」
 サッドの金色の眉がすっと上がった。見る間に肩から緊張がとれ、彼は口元に笑みを浮かべた。「スープのようには見えないけど」
 クロエもにっこりしながら目を上げた。目が合った瞬間、視線がそのままからみついた。まるで引き合う力が火花となって、二人の間に飛び交っているような感じがした。
「それとも、そんな味がするのかな?」サッドがささやいた。甘い息を顔に感じるほど、彼の顔が近くにある。警戒することさえ、クロエは忘れていた。近づいてくる彼の唇を無意識に待ちかまえ、彼女は息をとめ、目を閉じた。
 唇がそっとやさしく重なった瞬間、クロエの手はサッドの頬から力強い首へとすべり落ちた。そして甘いキスの魔法にかかったようにサッドに体をあずけた。サッドの唇が離れると、自分がしていることの意味もよくわからないまま、彼の首にまわした手に力をこめた。キスを長引かせたい一心だった。
 サッドは体を離したまま一瞬ためらっていたが、クロエがキスをせがむように唇を押しつけてくると彼女を抱きしめ、角度を変えて唇を重ねた。

*この続きは製品版でお楽しみください。

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