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オリンポスの咎人 III レイエス

オリンポスの咎人 III レイエス


発行: ハーレクイン
レーベル: MIRA文庫mirabooks シリーズ: オリンポスの咎人
価格:800pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆1
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解説

 【★サンプル増量作品!】
 ★神に命を狙われた女は、逃れられない宿命と愛を背負い……。新展開! 一瞬も目が離せない緊迫のシリーズ第3弾。★
 天使のような、悪魔のような甘いささやきが聞こえて目を覚ますと、ダニカは見知らぬベッドに横たわっていた。見張っているのはレイエス。数カ月前にも自分をさらった男だ。ダニカが猛然と殴りかかると揉み合いになり、気づくと怒りは欲望に変わっていた。以前囚われの身となったときから、憎むべきはずのこの男に惹かれ、忘れられずにいたのだ。だが衝動に屈してレイエスを求めるのは危険だ。彼は屈強な戦士であり、災いを引き起こす悪魔なのだ。そしてダニカは悪魔を倒す“ハンター”のスパイとして、ここに潜入したのだから。

抄録

 レイエスはブダペストにある砦の屋上に立っていた。五階の高さを見下ろすいちばん高い足場で危うげにバランスをとる。頭上では月が空を紅と黄色に染めている。それは黄金を散らした血のようでもあり、光と混じる闇のようでもあり、果てしなく広がる黒いベルベットにできた真新しい傷口のようだった。
 レイエスは眼下に待ち受けるよどんだ空間を見下ろした。地面が抱かせてくれと腕を広げ、あざ笑っている。数千年もの時を経ても、おれはまだこんなありさまだ。
 刺すような風が髪を四方に乱し、胸をくすぐる。首の下に彫りこまれたいまわしい蝶、そこに散った生き血の記憶。だがそれは彼の血ではない。友の血だ。生と死のいまわしい印に髪が打ちつけるたび、罪悪感という炎に薪がつぎたされていく。
 かなわぬ夢を抱いて何度もここに来た。繰り返し許しを請い、日々の苦しみから、身内にうごめく魔物からの解放を願い……みずからを傷つけることでしか快楽を得られない自分からの解放を願った。
 祈りが聞き届けられることはなかった。これからもないだろう。これこそが今の自分であり、これからの自分でもある。苦しみが減ることはない。かつて神に仕えた不死身の戦士は、今は“暗黒の戦士”として、聖なる箱に閉じこめられていた多くの災いの一つに取り憑かれている。寵愛は不名誉へ、愛は侮蔑へ、そして幸福は無限の悲しみへと変わった。
 レイエスは歯を食いしばった。人間は聖なる箱を“パンドラの箱”と呼ぶ。その箱こそが彼の身を滅ぼした元凶だ。数千年前、レイエスは仲間とともに無謀にもその箱を開けた。そして今、自分たちがその箱になりかわり、内に魔物を宿している。
 跳べ。レイエスの魔物が言った。
“苦痛”の魔物だ。けっして彼から離れない忠実な友。心の奥で彼にささやきかけ、言葉にするのもはばかられる邪悪なおこないをそそのかす。その超自然的な力との闘いは一瞬もやむことはない。
 跳べ。
「まだだ」もう少しだけ期待を味わおう。地面に叩きつけられれば骨は粉々に砕けるだろう。そう思うとレイエスの口元がゆるんだ。骨の破片は傷ついた臓器を突き刺し、水風船のように破裂させるだろう。皮膚は耐えきれずに裂け、彼自身の血が飛び散る。甘美なまでの苦痛がすべてをおおいつくす。
 だがそれもつかの間のことだ。
 レイエスのほほえみはゆっくりと消えていった。せいぜい数日、傷つけ方が足りなければ数時間で体は自動的にもとどおりになる。目が覚めれば体には傷一つなく、心の中では魔物がふたたび声をあげ、その声は無視できないほど大きくなっていく。けれども、骨がつながり臓器が形を取り戻し、皮膚が再生して血管に血が満ちるまでの至福の時間、彼は天国を、究極の楽園を味わう。それはこのうえなく甘美な恍惚だ。痛みがもたらすすさまじいまでの快感に彼は身をよじるだろう――それが彼の唯一の快感の源だ。魔物は満足の吐息をもらし、刺激に身をひたすあまり話すこともままならない。その間レイエスはこのうえない平穏を味わう。
 それはいつもつかの間でしかない。
「どんなに短い時間か、わざわざ思い出すまでもない」レイエスは暗い思いを押し殺した。時間はあっという間に過ぎる。一年が一日に、一日が一分に感じられることもある。
 それでいて永遠に思えることもあるのだ。暗黒の戦士として生きていると、そんな矛盾がいくつもつきまとう。
 跳べ。ふたたび魔物がささやいた。さっきより執拗に。跳べ! 跳ぶんだ!
「言っただろう。もう少し待てと」レイエスはふたたび地面を見た。血にも似た月光に険しい岩場がきらめく。岩場を囲む澄んだ水面に風がさざ波を立てる。亡霊の指のように霧が立ちのぼり、こっちへ来いと手招きする。「敵の喉にやいばを食いこませれば死ぬ」レイエスは魔物に言った。「だがそれで終わってしまう。期待して待つ時間もおしまいだ」
 跳ぶんだ! 声がもどかしげにうなる。まるでだだをこねる子どものように。
「もうすぐだ」
 早く跳ばないか!
 時として魔物はわがままな人間の子どものようになる。レイエスはもつれた髪をかきあげ、幾房か引き抜いた。もう一人の自分を黙らせる方法は一つしかない。服従だ。なぜ抵抗してまでこの瞬間を味わおうとするのか、彼にはわからなかった。
 跳べ!
「今度こそおまえは地獄に戻されるかもしれないぞ」願うだけなら誰でもできる。レイエスは腕を広げ、目を閉じた。体が前に傾く……。
「そこから下りろ」背後から声がした。
 邪魔が入り、レイエスはぱっと目を開け、体をこわばらせた。バランスをとったが振り返らなかった。ルシアンが何をしに来たのかはわかっていたが、自分を恥じるあまり友の顔を見られなかったからだ。魔物のせいで彼がどんな思いに耐えているか、ルシアンは理解している。しかし彼がしたことは理解してくれないだろう。
「そのつもりだ。放っておいてくれたら確実にそうするよ」
「意味はわかっているはずだ」ルシアンの声に笑いはなかった。「話がしたい」

*この続きは製品版でお楽しみください。

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