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オリンポスの咎人 V アーロン 上

オリンポスの咎人 V アーロン 上


発行: ハーレクイン
レーベル: MIRA文庫mirabooks シリーズ: オリンポスの咎人アーロン
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆1
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解説

 「アーロン、お願い、助けて」傷ついた体でようやくブダペストの古城に辿り着いたオリヴィアはアーロンの姿を認めて安堵した。この1カ月、彼を陰で見つめていた天使の彼女は、掟を破ったアーロンの命を奪えという神の命令に背いたために、翼をもがれて地上に堕とされたのだ。仲間を何よりも大切にする愛情深い彼に憧れ、自分もあんなふうに愛されたいと願ったばかりに。だが、アーロンはやさしさを見せるどころか冷酷なまなざしを向け、彼女を追い払おうとする。何もかも失ったオリヴィアには、もうアーロンしかいないのに……。

抄録

 あなたのためにと言ったのはまちがいだった。
 オリヴィアは不安で身をすくませた。あるひとつの思いが頭の中を大きく駆け巡る。これで何もかもおしまいだという思いだ。
 アーロンには少しずつ本当のことを打ち明けるつもりだった。この数週間、彼に近づくたびに苦しめて殺してやると脅されてきたからだ。姿を消していてもだめだった。アーロンにはそばにいることをさとられた。なぜなのかは今もわからない。夜陰にひそむ幽霊のように気配を消して気づかれないようにすればよかった。肉体となってここに来て、秘密をぶちまけた今、アーロンは彼女をいっそう危険な存在だと思っただろう。敵とみなしたかもしれない。
 かもしれない? オリヴィアは皮肉っぽく笑った。みなしたに決まっている。アーロンの質問は厳しく、彼女の心に食いこんだ。そう、これで何もかもだいなしだ。アーロンは彼女とかかわりたいと思わないだろう。脅したとおり、苦しみと死を与えることをのぞいて。
 この城で無残に殺されるために地獄の底から必死に這いあがってきたわけじゃない。アーロンとのチャンスに賭けてここまで来たのだ。失敗する危険を承知で。
 わたしならできる。何度もこっそり見つめてきたから、アーロンのことはよく知っているように思える。彼は自分に厳しく、他人と距離を置き、残酷なほど正直だ。仲間以外は誰も信じない。弱さには我慢できない。それでいて愛する者にはやさしく、面倒見がよく、気を配る。自分のしあわせより仲間のしあわせを大事にする。わたしもあんなふうに愛されたい。
 彼女が知る唯一の故郷、天界から追放される前の姿を見せられればどんなにいいだろう。飛ぶ力を奪われる前の姿。空中から武器を作り出す新たな能力を奪われる前の姿。この世の悪から身を守る力を奪われる前の姿。
 今の彼女は……。
 今は人間より弱い。何世紀も脚よりも翼に頼ってきたので、まともに歩くことすらできない。今度のことにも失敗してしまったら?
 嗚咽がもれた。故郷と友を手放し、苦痛と恥と無力感を手に入れた。アーロンにまで追い出されたら行くところがない。
 「泣くな」アーロンがうなるように言った。
 「泣かずに……いられ……ないわ」オリヴィアはしゃくりあげながら答えた。前にも一度だけ泣いたことがある――そのときも原因はアーロンだった。彼への気持ちがふくれあがり、もう自分のことなどどうでもいいと思っていることに気がついたときの涙だ。
 自分のしたことの重大さが頭の中ですさまじい勢いで渦巻いている。理解できない貧弱な肉体にとらわれ、孤独で、ときおり無防備な人間たちを死の恐怖におとしいれる男の手中にある。以前の彼女は“喜びの運び手”としてその人間たちをしあわせにするのが仕事だった。
 「我慢しろ」
 「それなら……よかったら……抱きしめてくれる?」彼女は嗚咽の合間にそう言った。
 「だめだ」想像しただけでぞっとするという口調だ。「今すぐ泣くのをやめろ」
 オリヴィアはいっそう大声で泣きだした。故郷にいれば、師であるライサンダーが抱きしめて落ち着くまでなだめてくれるのに。実際にしてもらったことはないからわからないけれど、オリヴィアは師ならそうしてくれるはずだと思っていた。
 やさしい師。彼女がいなくなったことに気づいただろうか? 二度と戻れないことを知っているだろうか? 彼女がアーロンに惹かれ、地上で自由な時間ができるたびにひそかに彼を見つめ、課せられたおぞましい仕事が手つかずだったことなら知っている。けれどもアーロンのためにすべてをあきらめるとは思っていないはずだ。
 本音を言うと彼女自身、予想していなかった。
 アーロンに目を留める前から事情は変わり始めていた。あのころからこうなることは予想できたかもしれない。
 何カ月か前、翼に金色の産毛が生えてきた。でも金色は戦士の色であって、彼女は戦士にあこがれたことは一度もなかった。たとえそれが階位を高くするものであっても。
 身に降りかかった不幸を思い出してオリヴィアはため息をついた。天使には三段階のカーストがある。ライサンダーのような精鋭七天使は絶対神とともに仕事をする。七天使は時の始まりとともに選ばれ、ほかの天使たちの訓練や邪悪なものの動きの監視といった義務を遂行する。七天使の次が戦士――戦天使だ。戦天使は業火の燃える牢獄から逃げ出そうとする悪魔を倒す。最後がかつてのオリヴィアのような喜びの運び手だ。
 仲間の多くが金色の産毛をひと目見てうらやましがった――もちろん悪意などない。けれども生を受けて初めてオリヴィアは自分の道に不安を持った。どうしてわたしがそんな仕事に選ばれたのかしら?
 オリヴィアは喜びの運び手の仕事が大好きだった。人間の耳元で力づける言葉をささやき、自信と喜びをもたらすことが好きだった。たとえ苦しんで当然の理由があっても、ほかの生き物を傷つけるなんて……オリヴィアは身震いした。
 地上に堕ちて新しい人生を始めることを初めて考えたのがそのときだ。でも現実感はなくて、ただの空想だった。ところがアーロンを見つめるうちにその思いは強くなっていった。アーロンといっしょになったらどんなだろう? もしかしたらハッピーエンドが待っているかもしれない。
 人間になるのはどんな気持ちかしら?

 *この続きは製品版でお楽しみください。

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