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一夜の刻印

一夜の刻印


発行: ハーレクイン
レーベル: ハーレクイン・ヒストリカル・スペシャル
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 エリザベス・ベイリー(Elizabeth Bailey)
 アフリカ南東部の英連邦マラウィ共和国で生まれ育った。女優としてイギリスで舞台を踏むうち、興味が脚本と演出に向かうようになり、これらが三位一体となって初めてすばらしいドラマが生まれることに気づいたという。ついにロマンス小説の執筆に目覚め、才能が一気に開花した。サセックス在住。

解説

 小さな村で幼い娘と身を隠すように暮らすアナベルは、表向きは未亡人で、夫は戦死したことになっているが、ほんとうは初めから夫などいない。父の強い勧めで都会を離れて3年がたったある日、アナベルのもとに牧師が訪ねてきて、驚くべきことを告げた。ご主人が亡くなったというのは間違いで、無事に帰還した、と。牧師が伴ってきた男性を見るなり、アナベルは口を覆った。ヘンリー・コルトン大尉――かつて私が愛した人!いったいなぜ、彼がここにいるの?
 ★本作のヒロインは第2話『美徳の戯れ』に登場したアナベル・レット。ある事情から未亡人になりすまさざるを得なかった彼女の悲しい愛の物語です。2月刊『愛の忘れもの』もお楽しみに。

抄録

 心臓がドラムのように打っている。アナベルは引き返すべきだと感じた。でも、彼にもう一度会いたいと心から思っていたので、つい彼の歩調に合わせてしまった。
 テラスにもれる光が背後に遠ざかるにつれて、夜の闇がふたりをのみこんだ。ハルは歩調をゆるめ、黙ったまま芝生の先へ進んでいった。前方にぼんやりした黒いものが現れ、アナベルは気がつくと円形のあずまやに足を踏み入れていた。透かし彫り装飾の隙間から差しこむ星明かりと月の光だけが、板石敷きの床をまだらに照らしている。
 アナベルは息を切らしていた。ハルに遅れないようについてきたせいばかりでなく、解放感も覚えていたからだ。彼女は別れたはずの恋人の大きな体から離れた。胸がどきどきする。アナベルは震える声で言った。
「なぜこんなところに連れてきたの? 話し合うことはもうないわ、ハル。終わったのよ」
 荒々しい息遣いが聞こえ、彼が憤慨しているのがわかった。
「ああ、きみは一週間前にもそう言ったね。あのときぼくは動転し、かっとして何も考えられなかった。だが、あれから充分時間があった。きみはお父さんの命令に従ったんだな」
「助言に従っただけです」アナベルは訂正した。「父があれほど強く反対しているんですもの、どうしてあなたと結婚できるでしょう?」
「お父さんはただ意固地になって反対しているだけだ」
 アナベルの目が暗さに慣れ、ハルのたくましい姿がさっきよりも見えるようになった。近くにいるのが苦しかった。しかし、ハルを拒絶するという決意は貫かなければならない。
「ハル、あなたとのことはもうすっかり終わったのよ。わたしはひとりっ子ですもの。父が娘のためによりよい将来を願うのは当然でしょう――」
「大尉になったばかりの次男坊なんかと結婚するよりもか」ハルは苦々しげに言った。「二度とそんなことは言わないでくれ。ぼくは信じないからな! ミスター・ハウズはぼくが将来を約束された将校だと承知しているはずだ」
「父はわたしを軍人の妻にさせたくないのよ、ハル」
「きみさえ気にしなければ、お父さんが反対する理由はないだろう?」
「もし頭ごなしに反対されたり、ひどい仕打ちをされたりしていたら、わたしも結婚を躊躇しなかったわ」アナベルは低い声で言った。「でも、父は自分の正直な気持ちを捨てようとした――」
「正直な気持ち!」ハルは叫んだ。「むしろ、理不尽な偏見だろう」
「偏見なんかじゃありません。父はわたしへの失望を隠そうとしたけれど、悲しんでいるのは見て取れたわ。だから婚約を取り消したんです」
「精神的な脅迫だな」ハルはあざけった。
「やめて! よくもそんなことが言えるわね。父は脅迫なんかしていないわ。わたしたちの婚約を許したのよ。破棄しようと決めたのはわたしです。なぜ父を悪く言うの?」
 ハルは苦々しげに笑った。「落ち着けよ、アナベル。ダーリン、お父さんがきみの愛情を利用しているのがわからないのか? しぶしぶだろうが、お父さんが許したことに変わりはない。きみは、お父さんにかこつけて自分の気持ちを偽っているんだ」
「もうやめて!」アナベルは叫び、狭い空間で可能なかぎり彼から遠ざかった。「こんな会話は無意味だわ。こんなふうにつきまとわれたら、わたしがどれほど傷つくか、どうしてわからないの?」
「ぼくの傷はどうなるんだ、アナベル? ぼくはきみを愛している!」
 彼女の胸はつぶれそうだった。「言わないで、ハル!」
 ハルはすばやくアナベルの肩をつかみ、ぐいと引き寄せた。「いや、言わせてくれ! アナベル、時間がないんだ。きみもぼくを愛していると知りながら、このままイギリスを離れることはできない。きみがほかの男と結婚すると考えるだけで苦しくなる」
 アナベルは彼から離れようともがいた。「行かせてちょうだい! あなたはわたしをふたつに引き裂こうとしているのよ。それがわからないの? ハル、こんなやり方はずるいわ! 別れようと決心するのに、わたしが少しも悩まなかったと思っているの? わたしだってあなたを愛しているのよ。でも――」
「その言葉を聞きたかった!」ハルはしぼり出すように言った。
 次の瞬間、アナベルは彼の広い胸に押しつけられ、キスされていた。温かいものがこみ上げた。アナベルはハルにしがみつき、彼に負けないほどの情熱に駆られて夢中でキスに応えた。
 だが突然、父親の哀れなほどうろたえた顔が思い浮かんだ。アナベルはもがきながら後ずさり、無理やりハルの腕をほどいた。
「いけないわ! ハル、お願いだから、わたしを放っておいて。あなたとは結婚できません。できないのよ!」
 彼女が後ずさっても、ハルはそれ以上前に踏み出さなかった。しかし、乱れた息遣いが、彼の情熱が消えかけていない証拠のようにアナベルには聞こえた。それが、自分がすべきこととは逆の効果をもたらした。アナベルは手足が震えるのを感じた。ハルに求められたらあらがいきれないのはわかっている。だから、今すぐここから立ち去らなければならないのに、逆に彼を求める気持ちが高まった。
「きみはぼくのものだよ、アナベル。このままではぼくたちふたりの人生が台なしになると、きみもわかっているはずだ。なんのせいで? 偏見に凝り固まって、娘の幸せを犠牲にすることもいとわない頑固な老人のせいだ!」
 アナベルはいきなりハルに飛びかかった。両手をこぶしに握り、怒りにまかせて彼をたたこうとした。
「言わないで! ひどいわ! いやな人! あなたなんて嫌いよ!」
 ハルは彼女の手首をきつくつかんだ。
「暴れるな! やめろ!」
 しかしアナベルは怒り狂って泣き叫び、ますます激しく抵抗した。自分が何を言っているのかもわからず、ただ、これほど自分を傷つけたハルを殺したいと思いながら……。

*この続きは製品版でお楽しみください。

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