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和書>小説・ノンフィクションハーレクインウエディング・ストーリー

孤島の伯爵

孤島の伯爵


発行: ハーレクイン
シリーズ: ウェディング・ストーリー
価格:400pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 トリッシュ・モーリ(Trish Morey)
 オーストラリア出身。初めて物語を作ったのは十一歳のとき。賞に応募するも、応募規定を誤ってしまい失格に。その挫折がもたらした影響は大きく、やがて彼女は会計士としての道を選ぶ。故郷アデレードからキャンベラに移り住んだとき、現在の夫と出会った。結婚し、四人の娘に恵まれ幸せな日々を送っていたが、夢をあきらめきれずもう一度小説家を目指すことに。数々の挫折を乗り越え、ついに自らの手で作家としての人生を切り開いた。今ではオーストラリアのロマンス作家協会で、副会長を務める。

解説

 グレイスは1週間の調査予定で、貴重な古文書が発見された孤島の城に来た。城の主はアレッサンドロ・ヴォルタ。10年前の悲惨な事故で負傷して以来、先祖代々の古城に隠棲してきた伯爵だ。彼はグレイスの姿を目にするなり激怒して言い放った。「今すぐ出ていけ!」

抄録

 彼女はデスクの前に座り、古文書の一枚を見つめながら、その隣に置いたノートパソコンに文章を打ち込んでいる。彼が入ってきたのがわからないようだ。眉を寄せていても、今日はいつもより若く見える。というか、さっぱりしているだけかもしれない。ポニーテールにする代わりに頭のうしろで髪をねじってまとめているので、金色のほつれ毛がふわふわと飛び出ている。Tシャツは白いタンクトップに変わっている。肩紐があまりに細いので、どうやって下着を隠しているのか不思議だった。
 下着をつけているとしたらの話だが……。
 アレッサンドロの肺から空気がなくなった。血が下半身に向かった。グレイスはまだ彼がいることに気づかず、何かつぶやいてぱっと立ちあがった。そして、そばのサイドボードの上にあるブリーフケースのほうに振り向くと、中身をかきまわした。こんなにも仕事に集中している彼女を見て、今邪魔するのは失礼だとアレッサンドロは思った。それに、後ろから見ているのも全然悪くはない。はきふるしたデニムのスカートはヒップにぴったりと密着し、思わず触れたくて手がうずく。だが彼が何よりすばらしいと思ったのはその丈だ。短いスカートの下から驚くほど長い脚がのぞいている。
 アレッサンドロは息を吸いこみ、失った空気をおぎなおうとした。彼女は村の女とはまるで似ていない。あの女はオリーブ色の肌と黒い目を持ち、豊満で妖艶な色気がある。だがグレイスは金髪で小柄、青い目で、本の虫と言っていい。これでは筋が通らない。
 だが、すべてを変える相違点がひとつある。
 彼が求めるのはこちらの女だ。
 そのときグレイスがブリーフケースから書類の束のようなものを取り出して目を上げた。ドア口に彼が立っているのを見て不安げにまばたきする。「ヴォルタ伯爵。意外なお客さまだわ」
 アレッサンドロはうなずいた。「ハンター博士」そう言うと彼は思いを巡らせながら近づいた。何か言おうと思っていたはずなのに、彼女に近づくことしか考えられない。近づけば思い出すかもしれない。それにさっきの問いに対する答えも見つかるだろう。ところが、ここに来た理由をひねり出す前に、そしてタンクトップの肩の下にそれらしきラインが見えるかどうか確かめる前に、グレイスがはっとするような笑顔を見せた。爪先まで電流に貫かれ、彼はうずく部分が震えるのを感じた。
 「ちょうといいタイミングだわ。これを見て」
 「これというのは?」
 「最初のページを翻訳したの。これは祈祷よ。真夜中の祈祷なの。夜明けを待ち望み、夜の闇が去ることを願うものよ」
 アレッサンドロは古文書に目をやり、次にグレイスがノートパソコンの画面に出した翻訳を見た。「で、これのどこが重要なんだ?」
 「わからない? 『健全の書』は大事にされてきたわ。いいえ、それどころか癒やしの書として崇拝されてきた。でも現存するわずかな部分だけでは、その理由がわからなかったの。食べるのも飲むのも控えめにとか、新鮮な空気を吸えとか、そういったことはもちろんいいアドバイスだわ。でも奇跡的に治ったり命が助かったりしたという評判を持つ書物としては物足りない、もっと何かあるはずだというのが学者の意見だったの。何世紀にもわたって、失われたページに何が書かれていたのか、なぜ切り取られたのか、憶測が飛びかったわ」
 彼はグレイスが何を言いたいのかわからなかった。正直に言って、どうでもよかった。しかし新たな発見について語る彼女の顔があまりにも生き生きしていたので、つい引きこまれてしまった。彼は肩をすくめて言った。「誰かの機嫌を損ねたから、破り取られたのか?」
 グレイスは首を振った。「たしかに、そう推測する人がいちばん多かったわ。でも、わたしはそうだとは思わない。今はね。書物をだめにするためじゃなく、救うために切り取られたのよ」
 「どうして?」
 「宗教的でなかったからよ。祈祷は命と生活の祈りで、大地をすべての母とするものだったの。現代のわたしたちにとっては不愉快でもなんでもないけれど、当時はこの寛大な真理と知恵は神への冒涜だと見なされたにちがいないわ。この祈祷のページが抜き取られたからこそ『健全の書』は後世に残ることができたのよ。このページがなかったおかげで、誰の反感を買うこともなく、記憶の中だけに留まらずに生きのびたんだわ。もし残っていたら『健全の書』はまちがいなく燃やされてしまったでしょうね。この書物を残そうとした誰かが、ここにあるページを切り取ったの。そうやってこの書物が生き残れるようにしたのよ」
 グレイスの頬が紅潮している。青い目は輝くほど明るく輝いている。アレッサンドロは古文書のことも焚書のことも何ひとつ知らなかったが、自分が燃えていることはわかった。すぐにも何かしないと燃えつきてしまうだろう。彼の手がグレイスの肩に引き寄せられ、うなじを包みこむ。彼の指はまとめた髪の中に滑りこんだ。
 グレイスが驚いて彼を見上げた。その目には、彼が答えることのできない問いが浮かんでいた。
 ただひとつ言えるのは、彼女がほしいということだけだ。

 *この続きは製品版でお楽しみください。

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