2019/8/20 更新
「伯爵との一夜のあとで」
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山下友美先生が選ぶ名場面
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※過去の過ちに人生を狂わされたH&Hかたや伯爵、かたや元お騒がせセレブ セレブならさぞ恵まれるかと思いきや、世間の目にさらされる悩みと覚悟。境遇がにているようで、考え方は真反対のふたりが歩みよっていくところを描けて楽しかったです。(あとはヒーローの世紀の告白シーン)原作は三姉妹の3部作でほかは未翻訳ですが、H&Hや家族のその後が描かれているらしく、個人的に気になっている作品です。
「過去からの旅人」
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山下友美先生が選ぶ名場面
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※原題はHot As Iceオメガシリーズの第1作にあたるそうです。ハーレクインでは異色作ですが、現代の自由で自立したヒロインの言動に驚く昔気質のヒーローと、考え方は古いけれど男性の情熱に次第に溶かされていくクールなヒロイン…これは相手が「過去から来た男」でなくても普通にあることじゃないかな? と思いつつ描きました。編集さんが作成した巻末のライトニング長官の年表は必見です!
「大富豪と誘惑旅行」
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山下友美先生が選ぶ名場面
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※ヒロインの家族が気持ちよくて素敵でお気に入りです。(特にパパ)兄弟もたくさんいて、スピンオフがあったりするのでは? と思いつつ…。描きながら、まだ行ったことのないオーストラリアに思いを馳せました。私は「いいお父さん」というアナザーヒーローが出てくる作品が好きなのかもしれないです…。
「一夜の愛に賭けて 麗しき三姉妹 II」
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山下友美先生が選ぶ名場面
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※ペニージョーダン三姉妹のシリーズの2作目です。ヒーローによって背中を押されたヒロインが、闇をかかえているため愛に踏み出せないヒーローを今度は後押ししていく姿に感動しました。三姉妹の中では彼女が一番お気に入りです。
「三カ月だけフィアンセ」
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山下友美先生が選ぶ名場面
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※ハーレクイン初作品で思い出深いです。掲載前に本誌小説連載の挿し絵も描かせていただきました。脇役も魅力的で書いていて楽しく、原作では妹のサラの恋愛も平行して描かれていたのですが、ページの都合でカットとなり、いつかアナザーストーリーで書きたいです。
「エンジェル・スマイル」
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藍まりと先生が選ぶ名場面
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※ヒーローがヒロインを通して世界中を愛しいと思った瞬間思わず口をついて出た感謝の言葉。このお話自体が、ただ情熱的に惹かれ 合ったのではなくお互いの人柄や価値観をゆっくり理解して愛を育んでいく物語でその中にあってこそ一段と輝いて好きなシーンです。
「葡萄色の追憶」
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藍まりと先生が選ぶ名場面
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※姿かたちが変わっても 本当は誰なのか知らなくても何度出会っても同じ人を愛するヒロインが初めて愛する人の本当の名前を知った瞬間。「こんにちは」というごく普通の言葉と抱擁もないさりげないふれあいに深い深い意味を込めてみた、好きなシーンです。
「夜明けのプロポーズ」
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藍まりと先生が選ぶ名場面
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※お話のかなりの部分が暗い穴の中という異色なお話。すべての希望を捨てそうになるマギーがアダムの声に励まされ、ただその声だけを頼りに小さな絶望の塊のような小石をひとつひとつ自分の後ろへと落としていくシーン。ロマンスらしからぬ画面で、さらにいくら遭難したとは言えちょっとヒロインを汚しすぎた(画面的に)と反省もしています。
「砂漠に咲いた愛」
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藍まりと先生が選ぶ名場面
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※他人に遠慮などしたことがないであろう砂漠の王族がヒロインを大切にするあまり、どこまで迫っていいかわからなくなって”せめて”と初めて触れ合うのが「手をつなぐ」というお前は中学生かいっ、と突っ込みたくなるお気に入りのシーン。
「愛する資格」
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藍まりと先生が選ぶ名場面
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※ハーレコミックスの見せ場、涙の告白シーンのかわりに告白後の大笑い。緊張の糸が切れた時に笑いがこみあげて止まらなくなるという状況、すべての誤解が解けたこういう場面ではそういうこともあるのじゃないかと原作にないのに加えてしまったエピソードですが二度は描けないだろうと大切に思っているシーンです。
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小林博美先生のコメントをご紹介
別れは朝まで待って 恋するクイーン I
「恋するクイーン」という表題となって2作品が1冊のコミックスにもなった藤田和子先生とのミニシリーズです。シリーズ物を他の作家さんと連作するというのは以前にもあったのですが、実際に直接作家同士でやりとりして小物や出てくる絵を合わせたり製作中のキャラのデータを交換したりというのは初めてだったので、とっても緊張しつつもすごく楽しかったです。お互いのキャラの絵を描き合った部分を見つけていただくのも一興、ぜひそれぞれのヒロイン&ヒーローを堪能していただきたい作品です!
暗闇のオアシス
これはもう、ヒーローをどんどん私好みに描いてしまって最後の方はオリジナルエピソードも入れてしまった部分があります。まったく傲慢さもなく、とにかく優しく懐深くヒロインのために尽くすヒーロー!なので、ハーレクイン=強気で傲慢なヒーローというイメージだと、ちょっと違いますが読者の方からの評判もよく、あんなヒーローがほしいという嬉しいご感想を多数いただいた作品です。原作もとても素敵なので、ぜひ読み比べていただけたら嬉しい作品です。
花嫁の値段
本当に欲しいものを取り戻すため、実父の冷酷な取引の材料となるヒロイン。ヒロインのせつない願いは表立って口にすることはできず…という物語に原作を読みながらも、漫画を描きながらも、うるうるしてしまった思い出深い作品です。ヒーローも自分の欲しい物のために取引したのですが、ヒロインの真実を知ったときに下した決断が男らしくて本当に好きです!ぜひみなさんに読んでいただきたい作品です。
一夜だけの身代わり
ヒロインがピュアで、ヒーローもやり手で傲慢なわりに意外とピュアで(笑)原作で出てくる猫がとってもキュートなものだからハーレクインで大好きな猫も描ける!と思って描いた物語です。絵にしにくかったので猫の毛色は原作と違いますが猫とヒーローとの絡み部分はとても気に入っています。あと、シダのその後を気にしてくださった読者の方もおられましたが大丈夫、ふたりと猫と一緒に元気に生き生きと暮らしてると思います。(シダのことを知りたいと思ったあなた、ぜひ、ごらんくださいませ!)
禁じられた片想い 偽りの結婚ゲーム II
仕事場ではすっかり「呪われた三兄弟」という通称だった三連作のシリーズ。地中海の島国で王族にも当たる程の富と名誉を持つ三兄弟の物語です。300年前に一族にかけられた呪いを解くため、結婚することになった三兄弟の2作目が次男の物語「禁じられた片想い」です。長男も三男も、それぞれの個性があって、ぜひ3作品続けて読んでいただきたいシリーズです。呪いをかけた女性の表情もじょじょに変わっていくので、合わせて呪いの結末がどうなったのかもぜひ見届けていただきたい作品です!
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麻生歩先生のコメントをご紹介
非情なウエディング
私の中ではとにかく何もかもパーフェクトでこれぞハーレクイン! という思いで描いた渾身の一作です! 描いている間は本当に楽しくて幸せでこのまま終わりたくなかったほど(笑)。リン・グレアムにしては傲慢と言いつつ、すっごく優しさ溢れ人を見る目のある素敵な最高のヒーローです! ヒロインも可愛くて理想的な女性で、とにかく大大大好きな作品です。
シンデレラの純潔
まさにシンデレラというタイトル通りのヒロインですが、不遇な境遇に生まれながらも懸命に自分の人生と向き合う彼女の幸せを心から願いながら描いたこの作品。レストランでのヒーローとの食事シーンは描いているときはもちろんのこと、今思い出しても胸が詰まり泣けてくるほど思い入れの深い忘れられない作品です。
愛するがゆえの罰
何年経っても忘れることができない相手との運命の再会で、自らの愛の深さを確信してしまう誠実なヒロインが可愛くて、そんなヒロインを何としても、悪魔に魂を売ってでも手に入れたいヒーローの気持ちがよくわかる!……と感情移入してしまいました(笑)。
誘惑の千一夜
初めて描かせていただいたシーク作品でとても衝撃的でした!これぞリン・グレアム! これぞシーク! という気持ちとともにこんなに描きたいように描いちゃっていいのですか! 嬉しい楽しい! ワクワクが止まりませんでした(笑)。愛情深さゆえに嫉妬も深いヒーローとのめまぐるしい展開にハラハラドキドキからの〜ラストのヒーロー愛の告白での言葉がもう〜倒れそうなくらい最高に素敵で、ヒロインが心底うらやましかったです(笑)。
奇跡はイブの日に
ヒーローの凍りついた心の扉をヒロインの温かな愛が溶かしていく人生の再生ストーリーなのですが、手紙のシーンからラストにかけては、もう泣きながら原稿を描いて涙がボタボタこぼれ落ちなかなか進まなかった想い出深い美しい作品だと思います。大切な方を思いながらぜひ読んでいただきたいです。
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さちみりほ先生のコメントをご紹介
子爵に片想い 〜男装令嬢は美しさを隠せません〜
男装の美少女、退屈子爵、おネエの友人に強面従僕、大活躍の犬まで、みんな描くのが愛しくて。登場人物を半分にしたりと苦労は多かったものの、141枚をわずか1か月で完成できたのは、ひとえに原作の面白さのおかげです。楽しかった〜▽
追憶の赤いばら
十代の、胸が痛くなるような不器用な恋。これは本当に少女漫画のつもりで描きました。「青春の輝きは短く、過ぎ去った時間(ルビ:とき)は戻らない。でも私たちは胸をはって生きてゆく。年をとっても、お腹が出ても、人生は輝き続けることを知っているから」。すべての、大人になった少女たちへ。
イタリア大富豪と小さな命 モンタナーリ家の結婚 I
もう赤ちゃんズが描きたくて描きたくて▽ ジョヴァンニが育てた金髪ヴィートは部屋もお洋服もレースでフリフリ。対する黒髪リックはリニ兄ちゃんの趣味なのか怪獣だらけ。やがておそろいの服も▽と作画でも遊んでました。これも楽しくて1か月で完成しました。
罪深きワルツ
「熱いバレンタイン」でヘタレヒーロー描いてもいいんだ〜♪とノリノリになり、さらに貧乏でよいとこ顔だけ、かっこいいとこは全部親友にもっていかれるヒーローを描きました。不器用でダメダメだけど、ヒロインを一途に愛するヒーローが大好き。このお話では、ヒロインの成長も描けて達成感がありました。
疎遠の妻、もしくは秘密の愛人
前編集長から盲目ヒーロー描いてね▽と渡された原作。私は執事のヘンドリクスにはまってしまい、彼の最大の見せ場では、これ以上ページを増やさぬよう必死で自分を抑えました…が、彼への愛はダダもれでしたね。ハーレにはめずらしい(?)イケメンふたりに愛されるヒロイン。でも、夫ひと筋で一途なヒロインがいじらしかったです。
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I'm not good at this…
「こういうのは得意じゃなくて……」
英語ワンポイントレッスン
作中では、ジェイソンがパレードを見に行こうとリディアを誘った直後に、照れが高じて思わず口走ってしまった台詞ですが、デートのお誘いに限らず、ちょっと言い訳をしたいときに便利な言い回し。
人前が苦手なのにスピーチをするとき、道を尋ねられたけど自信がないときなど、“I’m not good at this, but 〜〜”と前置きすると、過度な期待値を下げることができます。
“得意じゃないけど”と照れながらも、初対面のリディアの誘い出しに成功したジェイソン。でも、照れることで、この誘いが単なる友人知人に対してとは異なる、恋愛感情の伴ったものであることがわかります。さりげなくリディアのことを「魅力的な女性」とか言っていますし。じつのところ、ジェイソンはかなりの策士なのかもしれませんね!
人前が苦手なのにスピーチをするとき、道を尋ねられたけど自信がないときなど、“I’m not good at this, but 〜〜”と前置きすると、過度な期待値を下げることができます。
“得意じゃないけど”と照れながらも、初対面のリディアの誘い出しに成功したジェイソン。でも、照れることで、この誘いが単なる友人知人に対してとは異なる、恋愛感情の伴ったものであることがわかります。さりげなくリディアのことを「魅力的な女性」とか言っていますし。じつのところ、ジェイソンはかなりの策士なのかもしれませんね!
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クリスマスは心の中に
ブレンダ・ミントン/日向ひらり 訳
ドアが開き、12月のひんやりとした空気が店内に流れこむ。と同時に、幼い少女が駆けこんできて、青い瞳を輝かせながら、浮き立つような足取りで店内を見て回り始めた。
リディア・ジャクソンはカウンターの前に出ると、少女に笑いかけながら、つき添いの大人を待った。ゆっくりとした足取りで現れたのは、男性だった。彼は華やかな店内に目を走らせた。
「毎日がクリスマスの、〈リディアの店〉へようこそ!」自作のキャッチフレーズだが、われながら陳腐に聞こえることがある。
男性にちらりと視線を向けられ、リディアの心臓が小さく跳ねた。彼の瞳も少女と同じ青だが、違うのは、そこに人生経験がもたらした賢明さがうかがえることだ。固く結ばれた口元にはユーモアの気配も漂っている。
「本当に毎日クリスマスなの?」少女が尋ねた。「プレゼントも毎日もらえる?」
リディアは大きな笑みを浮かべた。「ううん、もらえない。でも一日一日がプレゼントだと思ってるわ。それに、このお店では音楽も飾りつけも、いつだってクリスマス一色よ。ホットココアもあるしね」
「クリスマスはいつでも心の中にあるんだよって、パパが教えてくれた」少女が真剣な面持ちで言った。「天国に行っちゃったけど、ママもわたしの心の中にいるんだって」
リディアはなんと言えばいいのかわからなかった。膝立ちになって、目線を少女と同じ高さに合わせた。
「とってもすてきなことを教えてもらったのね。ねえ、クリスマスって特別な日でしょ?だから、あなたに特別なものをあげる。手作りのペパーミント・キャンディよ。1本いかが?」
立ち上がろうとするリディアに、男性が手を差し出した。つかのま視線が合い、リディアは落ち着かない気分になった。クリスマスには30歳の誕生日を迎える。最後に男性の前でどぎまぎしたのがいつだったかなんて、思い出せないくらいだ。
「この町へは、キリスト降誕劇とパレードを観にいらしたの?」リディアは恐る恐る、もう一度目を合わせた。
「違うよ。お姉さんに会いに来たんだよ」少女がにっこりした。
「私に?」リディアは尋ねた。「どこかでお会いしたかしら?」
男性がかすかな笑みを浮かべた。「そういうわけじゃないんだ」
「ケア・パッケージを送ってくれたでしょ?」少女が言葉を足す。「手作りのキャンディが入ったやつ」
“ケア・パッケージ”……。5年前にリディアが始めた活動のことだ。故郷にこの店を開くために、海軍を除隊した。けれども、まだ残っている人たちのことを考えずにはいられず、町の教会と協力して、彼ら宛てにクリスマスの贈り物をつめた小包を送るようになったのだ。
「僕も1箱もらったんだ。軍医として乗艦していたときにね。あんなにおいしいキャンディを食べたのは何年かぶりだった」
「キャンディはここで作ってるの。お客様もキャンディ作りやオーナメントの色づけに申しこめるのよ。手作りがうちのこだわりで」
「知ってるよ、調べたから。君の活動に感銘を受けたんだ」気恥ずかしげに、男性が頬を赤くした。「クリスマスの新しい伝統を作りたくてね」
リディアにはわかる気がした。彼は奥さんを、少女はお母さんを失った。多くの人にとって楽しいクリスマス休暇が、二人には悲しみの象徴なのだ。娘と分かち合うために新しい伝統を作るという考えは、これ以上ないくらいの名案だ。
「とはいえ、それほど深く考えていたわけではないんだ」男性が言った。「キャンディを作ろうかとも思ったが、パレードを観るだけになるかもしれない」
「キリスト降誕劇も本当にすごく感動的よ」リディアは教えた。
男性は少しのあいだ無言で娘を見ていたが、やがてリディアと視線を合わせた。
「君も来てくれるかな?」緊張した様子で髪をかき上げる。「こういうのは得意じゃなくて……出会ったばかりの魅力的な女性を、外出に誘うのは。本当に、ここへ来たのはキャンディのためだったし」
「パレードもだよ」今度も少女が補足した。
「名前を教えてほしいわ」リディアは言った。「知り合いとばったり会ったとき、あなたのことを、店にやってきた見ず知らずの人って紹介するわけにはいかないから」
男性が手を差し出した。「ジェイソン・ガードナーだ。これは娘のオリヴィア」
リディアがジェイソンの手を取ると、彼は少し長めに握り返した。
店のドアが開いて客が入ってきたのと同時に、遠くからクリスマスキャロルが聞こえてきた。
ジェイソンがリディアの手を放した。だがその瞬間、これが忘れられないクリスマスになることを、彼女は予感した。
(fin)
ブレンダ・ミントン/日向ひらり 訳
ドアが開き、12月のひんやりとした空気が店内に流れこむ。と同時に、幼い少女が駆けこんできて、青い瞳を輝かせながら、浮き立つような足取りで店内を見て回り始めた。
リディア・ジャクソンはカウンターの前に出ると、少女に笑いかけながら、つき添いの大人を待った。ゆっくりとした足取りで現れたのは、男性だった。彼は華やかな店内に目を走らせた。
「毎日がクリスマスの、〈リディアの店〉へようこそ!」自作のキャッチフレーズだが、われながら陳腐に聞こえることがある。
男性にちらりと視線を向けられ、リディアの心臓が小さく跳ねた。彼の瞳も少女と同じ青だが、違うのは、そこに人生経験がもたらした賢明さがうかがえることだ。固く結ばれた口元にはユーモアの気配も漂っている。
「本当に毎日クリスマスなの?」少女が尋ねた。「プレゼントも毎日もらえる?」
リディアは大きな笑みを浮かべた。「ううん、もらえない。でも一日一日がプレゼントだと思ってるわ。それに、このお店では音楽も飾りつけも、いつだってクリスマス一色よ。ホットココアもあるしね」
「クリスマスはいつでも心の中にあるんだよって、パパが教えてくれた」少女が真剣な面持ちで言った。「天国に行っちゃったけど、ママもわたしの心の中にいるんだって」
リディアはなんと言えばいいのかわからなかった。膝立ちになって、目線を少女と同じ高さに合わせた。
「とってもすてきなことを教えてもらったのね。ねえ、クリスマスって特別な日でしょ?だから、あなたに特別なものをあげる。手作りのペパーミント・キャンディよ。1本いかが?」
立ち上がろうとするリディアに、男性が手を差し出した。つかのま視線が合い、リディアは落ち着かない気分になった。クリスマスには30歳の誕生日を迎える。最後に男性の前でどぎまぎしたのがいつだったかなんて、思い出せないくらいだ。
「この町へは、キリスト降誕劇とパレードを観にいらしたの?」リディアは恐る恐る、もう一度目を合わせた。
「違うよ。お姉さんに会いに来たんだよ」少女がにっこりした。
「私に?」リディアは尋ねた。「どこかでお会いしたかしら?」
男性がかすかな笑みを浮かべた。「そういうわけじゃないんだ」
「ケア・パッケージを送ってくれたでしょ?」少女が言葉を足す。「手作りのキャンディが入ったやつ」
“ケア・パッケージ”……。5年前にリディアが始めた活動のことだ。故郷にこの店を開くために、海軍を除隊した。けれども、まだ残っている人たちのことを考えずにはいられず、町の教会と協力して、彼ら宛てにクリスマスの贈り物をつめた小包を送るようになったのだ。
「僕も1箱もらったんだ。軍医として乗艦していたときにね。あんなにおいしいキャンディを食べたのは何年かぶりだった」
「キャンディはここで作ってるの。お客様もキャンディ作りやオーナメントの色づけに申しこめるのよ。手作りがうちのこだわりで」
「知ってるよ、調べたから。君の活動に感銘を受けたんだ」気恥ずかしげに、男性が頬を赤くした。「クリスマスの新しい伝統を作りたくてね」
リディアにはわかる気がした。彼は奥さんを、少女はお母さんを失った。多くの人にとって楽しいクリスマス休暇が、二人には悲しみの象徴なのだ。娘と分かち合うために新しい伝統を作るという考えは、これ以上ないくらいの名案だ。
「とはいえ、それほど深く考えていたわけではないんだ」男性が言った。「キャンディを作ろうかとも思ったが、パレードを観るだけになるかもしれない」
「キリスト降誕劇も本当にすごく感動的よ」リディアは教えた。
男性は少しのあいだ無言で娘を見ていたが、やがてリディアと視線を合わせた。
「君も来てくれるかな?」緊張した様子で髪をかき上げる。「こういうのは得意じゃなくて……出会ったばかりの魅力的な女性を、外出に誘うのは。本当に、ここへ来たのはキャンディのためだったし」
「パレードもだよ」今度も少女が補足した。
「名前を教えてほしいわ」リディアは言った。「知り合いとばったり会ったとき、あなたのことを、店にやってきた見ず知らずの人って紹介するわけにはいかないから」
男性が手を差し出した。「ジェイソン・ガードナーだ。これは娘のオリヴィア」
リディアがジェイソンの手を取ると、彼は少し長めに握り返した。
店のドアが開いて客が入ってきたのと同時に、遠くからクリスマスキャロルが聞こえてきた。
ジェイソンがリディアの手を放した。だがその瞬間、これが忘れられないクリスマスになることを、彼女は予感した。
(fin)
I never wanted to be friends. I want more.
「そもそも友達になりたかったわけでもない。それ以上の関係になりたい」
英語ワンポイントレッスン
ここでは、“never”という副詞がポイント。
この単語は、「決して〜ない」とか、「いつであろうと〜ない」、「いまだかつて〜ない」というように、強い否定を意味します。
ですから、作中のドルーの台詞 “I never wanted to be friends.” は、「きみと友人関係になりたいと思ったことがそもそもない」という強い否定文となります。友人に甘んじることを強く否定することで、直後の “I want more.” = 「もっと深い仲になりたいんだ」という願いが、より強調されるのです。
一見、とてもシンプルな言葉ですが、強く心に訴える、すてきな愛のフレーズですよね
この単語は、「決して〜ない」とか、「いつであろうと〜ない」、「いまだかつて〜ない」というように、強い否定を意味します。
ですから、作中のドルーの台詞 “I never wanted to be friends.” は、「きみと友人関係になりたいと思ったことがそもそもない」という強い否定文となります。友人に甘んじることを強く否定することで、直後の “I want more.” = 「もっと深い仲になりたいんだ」という願いが、より強調されるのです。
一見、とてもシンプルな言葉ですが、強く心に訴える、すてきな愛のフレーズですよね
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新たなる1ページ
ケイトリン・クルーズ/中野 恵 訳
サマンサは年頭の誓いを守るつもりでいた。これ以上ドルーに恋いこがれて、人生を浪費するつもりはなかった。彼はわたしを愛していない。これからも決して愛してはくれない。
サマンサは狭い専用オフィスに向かった。この5年、彼女はずっとそこで自分をあざむいてきたのだ。
ドルーが入社したのは、彼女がここで働き始めたすぐあとだった。初めて彼を見たときからわかっていたのだ。この人とわたしが釣り合うはずがない、と。ドルーは背が高く、肩幅が広く、黒い瞳はたまらなく魅力的だ。そしてその笑い声は、一度聞いたら何度でも聞きたくなる、深みのあるすてきな声だった。
彼女がオフィスに足を踏み入れ、自分のデスクに近づくと、ドルーのあの笑い声が聞こえてきた。いつものように彼の声がサマンサの体じゅうに充満し、明るさに包まれる。これがドルーなのだ。
でも彼が愛するのは、平凡な容姿のサマンサなんかではなく、きれいな女の子たちだろう。初めて会ったときから、彼女はドルーに恋をしていた。この5年間、ドルーの友人であることに満足してきた。彼の夢、希望、野望のすべてを知っていた。
でもわたしは、それ以上のことを知ることができない。ドルーがどこかの女性とめぐりあい、結婚をしたあとも、彼の野望を知っているという事実だけで我慢できるの? ドルーが家族のぬくもりに包まれているあいだ、わたしは彼の夢や希望だけで心を温めているの?
考えているうちに気分が悪くなり、サマンサは座席に腰を下ろした。心の準備をするため、新年早々1週間の休暇を取った。そして休暇が明けたいま、彼女は自分に言い聞かせていた――休憩室に行くのを口実に、ドルーのデスクの脇を通ってはだめ。
「まだ月曜なのに、ずいぶん深刻な顔をしてるじゃないか」
ドルーだ。
少しのあいだ会わなかっただけなのに、彼はいっそうハンサムに見えた。美しい、とすら形容したくなるほどだ。
「おはよう」鏡の前で練習したとおりの口調で言う。ぶっきらぼうでも乱暴でもない、毅然とした、私情をはさまない口調で。「休暇は楽しめた?」
ドルーは眉間にしわを寄せ、彼女の目をのぞきこんだ。「クリスマスのオフィス・パーティのあと、急いで帰ったな。先週は電話にも出なかった。具合でも悪かったのか?」
「いいえ、元気だったわよ」サマンサは微笑んだ。笑顔も練習ずみだ。
そうでもしないと、感情に押し流されてしまいそうだった。オフィス・パーティのときのように。あの日のことを思い出すだけで恥ずかしくなる。精いっぱいおしゃれをして、ドルーに微笑みかけられたときは、自分はきれいなんだとさえ感じた。あたかも、彼がわたしのことを……。
しかし、社長とのおしゃべりを終えたあとに彼女が目にしたのは、ドルーがどこへ行くにもセクシーなブルネットの美女を連れて歩く光景だった。自宅に向かうタクシーの中で、サマンサはひたすら泣いた。
いま、ドルーはこちらをじっと見ている。彼はサマンサのオフィスに入ると、後ろ手にドアを閉めた。サマンサの心臓がどきんとする。
「なんなの?」
「きみは新年に誓いを立てるタイプ?」彼は尋ねた。
「もちろん」まずい、誓いの内容をきかれるかもしれない。そう気づいたが、時すでに遅し。「今年はスポーツジムに通うつもりよ」
「ジムは嫌いだったはずだぞ」ドルーはにやりとした。「いいか、サム――」
「サマンサよ」
彼は少したじろいで言った。「ずっとサムって呼んできただろう」
「ほかの人たちと同じように、サマンサと呼んでほしいの」そんな嘘を口にするだけで、胸が痛んだ。「ニックネームは、プロフェッショナルらしくないから」
「これからぼくが言うことを聞いたら、きみはますます冷たい態度をとるだろうな。いいか、ニックネームなんて問題にならないくらい、プロフェッショナルらしくないことを言うぞ。ぼくはきみを愛してる」
絶対に聞き間違いだわ、とサマンサは思った。けれど、ドルーは近づいてくる。いつもの見慣れた、真剣な表情で。
「クリスマスに告白するつもりだった。もうきみとは友達でいたくないんだ、サム。そもそも友達になりたかったわけでもない。それ以上の関係になりたい。きみのすべてが欲しい。きみが欲しいんだ」
サマンサはとうてい信じられなかった。「まさか。ありえない」
ドルーはさらに距離をつめ、彼女の両手を握った。これは夢なんだわ。でも、彼の手のぬくもりも、瞳のきらめきも、とても夢とは……。
「きみもぼくを愛してくれてるのか?」彼は尋ねた。
そのとき初めて、サマンサは彼の顔に――この愛しいハンサムな顔に、不安の色が浮かんでいるのを見て、これは現実なのだと悟った。
「愛してる」彼女はささやいた。「ええ、あなたを愛しています」
ドルーの顔に笑みが広がった。彼女はそこに永遠の愛を見た気がした。終わることのない愛が、いま始まったのだ。
(fin)
ケイトリン・クルーズ/中野 恵 訳
サマンサは年頭の誓いを守るつもりでいた。これ以上ドルーに恋いこがれて、人生を浪費するつもりはなかった。彼はわたしを愛していない。これからも決して愛してはくれない。
サマンサは狭い専用オフィスに向かった。この5年、彼女はずっとそこで自分をあざむいてきたのだ。
ドルーが入社したのは、彼女がここで働き始めたすぐあとだった。初めて彼を見たときからわかっていたのだ。この人とわたしが釣り合うはずがない、と。ドルーは背が高く、肩幅が広く、黒い瞳はたまらなく魅力的だ。そしてその笑い声は、一度聞いたら何度でも聞きたくなる、深みのあるすてきな声だった。
彼女がオフィスに足を踏み入れ、自分のデスクに近づくと、ドルーのあの笑い声が聞こえてきた。いつものように彼の声がサマンサの体じゅうに充満し、明るさに包まれる。これがドルーなのだ。
でも彼が愛するのは、平凡な容姿のサマンサなんかではなく、きれいな女の子たちだろう。初めて会ったときから、彼女はドルーに恋をしていた。この5年間、ドルーの友人であることに満足してきた。彼の夢、希望、野望のすべてを知っていた。
でもわたしは、それ以上のことを知ることができない。ドルーがどこかの女性とめぐりあい、結婚をしたあとも、彼の野望を知っているという事実だけで我慢できるの? ドルーが家族のぬくもりに包まれているあいだ、わたしは彼の夢や希望だけで心を温めているの?
考えているうちに気分が悪くなり、サマンサは座席に腰を下ろした。心の準備をするため、新年早々1週間の休暇を取った。そして休暇が明けたいま、彼女は自分に言い聞かせていた――休憩室に行くのを口実に、ドルーのデスクの脇を通ってはだめ。
「まだ月曜なのに、ずいぶん深刻な顔をしてるじゃないか」
ドルーだ。
少しのあいだ会わなかっただけなのに、彼はいっそうハンサムに見えた。美しい、とすら形容したくなるほどだ。
「おはよう」鏡の前で練習したとおりの口調で言う。ぶっきらぼうでも乱暴でもない、毅然とした、私情をはさまない口調で。「休暇は楽しめた?」
ドルーは眉間にしわを寄せ、彼女の目をのぞきこんだ。「クリスマスのオフィス・パーティのあと、急いで帰ったな。先週は電話にも出なかった。具合でも悪かったのか?」
「いいえ、元気だったわよ」サマンサは微笑んだ。笑顔も練習ずみだ。
そうでもしないと、感情に押し流されてしまいそうだった。オフィス・パーティのときのように。あの日のことを思い出すだけで恥ずかしくなる。精いっぱいおしゃれをして、ドルーに微笑みかけられたときは、自分はきれいなんだとさえ感じた。あたかも、彼がわたしのことを……。
しかし、社長とのおしゃべりを終えたあとに彼女が目にしたのは、ドルーがどこへ行くにもセクシーなブルネットの美女を連れて歩く光景だった。自宅に向かうタクシーの中で、サマンサはひたすら泣いた。
いま、ドルーはこちらをじっと見ている。彼はサマンサのオフィスに入ると、後ろ手にドアを閉めた。サマンサの心臓がどきんとする。
「なんなの?」
「きみは新年に誓いを立てるタイプ?」彼は尋ねた。
「もちろん」まずい、誓いの内容をきかれるかもしれない。そう気づいたが、時すでに遅し。「今年はスポーツジムに通うつもりよ」
「ジムは嫌いだったはずだぞ」ドルーはにやりとした。「いいか、サム――」
「サマンサよ」
彼は少したじろいで言った。「ずっとサムって呼んできただろう」
「ほかの人たちと同じように、サマンサと呼んでほしいの」そんな嘘を口にするだけで、胸が痛んだ。「ニックネームは、プロフェッショナルらしくないから」
「これからぼくが言うことを聞いたら、きみはますます冷たい態度をとるだろうな。いいか、ニックネームなんて問題にならないくらい、プロフェッショナルらしくないことを言うぞ。ぼくはきみを愛してる」
絶対に聞き間違いだわ、とサマンサは思った。けれど、ドルーは近づいてくる。いつもの見慣れた、真剣な表情で。
「クリスマスに告白するつもりだった。もうきみとは友達でいたくないんだ、サム。そもそも友達になりたかったわけでもない。それ以上の関係になりたい。きみのすべてが欲しい。きみが欲しいんだ」
サマンサはとうてい信じられなかった。「まさか。ありえない」
ドルーはさらに距離をつめ、彼女の両手を握った。これは夢なんだわ。でも、彼の手のぬくもりも、瞳のきらめきも、とても夢とは……。
「きみもぼくを愛してくれてるのか?」彼は尋ねた。
そのとき初めて、サマンサは彼の顔に――この愛しいハンサムな顔に、不安の色が浮かんでいるのを見て、これは現実なのだと悟った。
「愛してる」彼女はささやいた。「ええ、あなたを愛しています」
ドルーの顔に笑みが広がった。彼女はそこに永遠の愛を見た気がした。終わることのない愛が、いま始まったのだ。
(fin)
That night, I knew you were my future.
「あの夜、ぼくはわかったんだ、きみこそがぼくの未来だって」
英語ワンポイントレッスン
この一文は、《時制の一致》がポイント。
主節“I knew ~~”が過去形ならば、つづく他の部分も同じく過去形にするという、英語のルール。
なので後半部分の“(that) you were my future”はbe動詞の過去形wereが使われていますが、日本語にするときはちょっとややこしいけれども、「ぼくの未来だった」ではなく、「ぼくの未来だ」と訳すのが正解です。
作中のような愛のフレーズなら特に、正しい文法でかっこよくキメたいところ。英語で告白するときは、時制を一致させれば、好きな人と気持ちも一致させられるかも?!
主節“I knew ~~”が過去形ならば、つづく他の部分も同じく過去形にするという、英語のルール。
なので後半部分の“(that) you were my future”はbe動詞の過去形wereが使われていますが、日本語にするときはちょっとややこしいけれども、「ぼくの未来だった」ではなく、「ぼくの未来だ」と訳すのが正解です。
作中のような愛のフレーズなら特に、正しい文法でかっこよくキメたいところ。英語で告白するときは、時制を一致させれば、好きな人と気持ちも一致させられるかも?!
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もう一度、あの日に戻って
シェレル・グリーン/西江璃子 訳
「マディソン、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫よ」そんな嘘が唇からこぼれ、全身に走る寒気をこらえた。最近、ローガンには嘘ばかりついている。それもこれも、かつては幸せだった結婚生活が、形ばかりの抜けがらになってしまったせいだ。
「みんなが来る前に、着替えてくるよ」
「わかった」そう答え、階段を1段飛ばしで上がっていくローガンを見送った。なぜあれほど冷静でいられるのだろう、わたしの心はこんなに乱れているのに。あと1、2時間ほどで親しい友人たち4人がやってきたら、わたしたちの決断を伝えなければならない。もしわかってもらえなかったら? そういうわたし自身、まだわかっていないというのに。
そんな物思いにふけっていたために、背後で咳払いが聞こえるまで、ローガンが戻ってきたことに気づかなかった。彼が今着ている濃色のジーンズとネイビーブルーのTシャツは、10年前の初デートで着ていたのと同じ服だ。なぜこんなにすてきなの? でも、いくらローガンがハンサムで魅力的でも関係ない。わたしたちは離婚するのだから。
「どうしてその服を着たの?」
ローガンは肩をすくめた。「最初に目についたのを着ただけだ」視線を合わせようとしないのは、彼もまた嘘をついている証拠だ。
わたしはディナーのテーブルセッティングを始めた。そんなわたしの動きを目で追うローガンの姿が視界の端に見える。
「そのドレスは自分のブティック用にデザインしたのか?」ローガンがたずねた。
わたしは流れるようなラインのドレスを見下ろした。半年前、家族が増えることを祝う夜に着るつもりでつくったドレスだ。けれども、その後に流産がわかり、これを着る機会は失われてしまった。3年間不妊治療をがんばってきたわたしたちにとって、流産は大きなショックだった。わたしもつらかったけれど、ローガンの落ちこみようは相当なものだった。
「つくったのは半年前よ」
その言葉の意味に気づいたローガンははっと目を見開き、やがてうなずいた。
「わたしたちが離婚すると聞いたら、みんな驚くと思う?」わたしは話題を変えた。「きっと理由を知りたがるでしょうね」
ローガンは何も答えなかった。いつものことだ。流産してからというもの、4カ月前の夜に一度きりベッドをともにした以外、交わす会話はせいぜいこの程度しかなかった。
ローガンはキッチンカウンターを片づけ始めた。「何か問題があったんだと察するだろうな。離婚なんてだめだと説得にかかるだろう」
本当はわたし自身も、離婚すべきかどうかまだ迷っている。そんな本心がのどの奥から出かかっている。激しい悲しみと苦悩のあげく、離婚を切り出したことを謝りたいという気持ちが。
「覚えてる? この写真を撮ったときのこと」ローガンが口を開いた。
わたしはローガンに近づいて身を寄せ、笑みを浮かべて答えた。「もちろん覚えてるわ。大学のとき、あなたとのデートが本当に楽しかったから、友達2人にあなたを引き合わせたくなったの」
「ぼくも友人2人をきみに紹介した」
「で、トリプルデートをしようということになったのよね」
「あの夜はさんざんだったな、みんなけんかばかりで」ローガンが声をあげて笑った。彼のこんな笑い声を聞くのは何カ月ぶりだろう。「きみがウェイターに頼んでこの写真を撮ってもらったんだったな、もうこのメンバーでのトリプルデートは最初で最後だろうと思って」
「ええ、まさかこんなに続くとは思わなかったわね」
ローガンが歩み寄ってきて、わたしの頬をそっとなでた。「あの夜、ぼくはわかったんだ、きみこそがぼくの未来だって」
わたしは彼を見つめ、まばたきをしてこみ上げる涙をこらえた。彼の瞳には、ずっと長いあいだ見ることのなかった熱い思いがあふれていた。「何言ってるの?」
ローガンが見つめ返してくる。「ごめん。ぼくは長いあいだ悲しみの中に閉じこもったまま、きみに寄り添おうとしなかった」
息がつまりそうになった。ローガンが素直に心を開けるのなら、わたしにだってできるはず。「本当は離婚なんてしたくない。あなたとのあいだに距離を感じるようになって、腹立ちまぎれに言っただけなの」
「ぼくだってそうだ」ローガンが額と額を合わせた。「じつはこの服を着た理由も、ぼくたちが最初に恋に落ちたときのことを思い出してほしかったからなんだ」
「おもしろいわね。わたしがこのドレスを着た理由は、前回のときは着られなかったからなの」胸の高鳴りを抑えながらそう言うと、ローガンの目がきらりと光った。
「できたのか?」
今度はわたしも涙をこらえずに答えた。「ちょうど4カ月よ」
たちまちローガンは満面の笑みを浮かべた。その笑顔はわたしの魂の奥深くまで届いた。幸せを、新たな始まりを象徴する笑顔だ。そう、これからは何もかもうまくいくのだ、と。
(fin)
シェレル・グリーン/西江璃子 訳
「マディソン、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫よ」そんな嘘が唇からこぼれ、全身に走る寒気をこらえた。最近、ローガンには嘘ばかりついている。それもこれも、かつては幸せだった結婚生活が、形ばかりの抜けがらになってしまったせいだ。
「みんなが来る前に、着替えてくるよ」
「わかった」そう答え、階段を1段飛ばしで上がっていくローガンを見送った。なぜあれほど冷静でいられるのだろう、わたしの心はこんなに乱れているのに。あと1、2時間ほどで親しい友人たち4人がやってきたら、わたしたちの決断を伝えなければならない。もしわかってもらえなかったら? そういうわたし自身、まだわかっていないというのに。
そんな物思いにふけっていたために、背後で咳払いが聞こえるまで、ローガンが戻ってきたことに気づかなかった。彼が今着ている濃色のジーンズとネイビーブルーのTシャツは、10年前の初デートで着ていたのと同じ服だ。なぜこんなにすてきなの? でも、いくらローガンがハンサムで魅力的でも関係ない。わたしたちは離婚するのだから。
「どうしてその服を着たの?」
ローガンは肩をすくめた。「最初に目についたのを着ただけだ」視線を合わせようとしないのは、彼もまた嘘をついている証拠だ。
わたしはディナーのテーブルセッティングを始めた。そんなわたしの動きを目で追うローガンの姿が視界の端に見える。
「そのドレスは自分のブティック用にデザインしたのか?」ローガンがたずねた。
わたしは流れるようなラインのドレスを見下ろした。半年前、家族が増えることを祝う夜に着るつもりでつくったドレスだ。けれども、その後に流産がわかり、これを着る機会は失われてしまった。3年間不妊治療をがんばってきたわたしたちにとって、流産は大きなショックだった。わたしもつらかったけれど、ローガンの落ちこみようは相当なものだった。
「つくったのは半年前よ」
その言葉の意味に気づいたローガンははっと目を見開き、やがてうなずいた。
「わたしたちが離婚すると聞いたら、みんな驚くと思う?」わたしは話題を変えた。「きっと理由を知りたがるでしょうね」
ローガンは何も答えなかった。いつものことだ。流産してからというもの、4カ月前の夜に一度きりベッドをともにした以外、交わす会話はせいぜいこの程度しかなかった。
ローガンはキッチンカウンターを片づけ始めた。「何か問題があったんだと察するだろうな。離婚なんてだめだと説得にかかるだろう」
本当はわたし自身も、離婚すべきかどうかまだ迷っている。そんな本心がのどの奥から出かかっている。激しい悲しみと苦悩のあげく、離婚を切り出したことを謝りたいという気持ちが。
「覚えてる? この写真を撮ったときのこと」ローガンが口を開いた。
わたしはローガンに近づいて身を寄せ、笑みを浮かべて答えた。「もちろん覚えてるわ。大学のとき、あなたとのデートが本当に楽しかったから、友達2人にあなたを引き合わせたくなったの」
「ぼくも友人2人をきみに紹介した」
「で、トリプルデートをしようということになったのよね」
「あの夜はさんざんだったな、みんなけんかばかりで」ローガンが声をあげて笑った。彼のこんな笑い声を聞くのは何カ月ぶりだろう。「きみがウェイターに頼んでこの写真を撮ってもらったんだったな、もうこのメンバーでのトリプルデートは最初で最後だろうと思って」
「ええ、まさかこんなに続くとは思わなかったわね」
ローガンが歩み寄ってきて、わたしの頬をそっとなでた。「あの夜、ぼくはわかったんだ、きみこそがぼくの未来だって」
わたしは彼を見つめ、まばたきをしてこみ上げる涙をこらえた。彼の瞳には、ずっと長いあいだ見ることのなかった熱い思いがあふれていた。「何言ってるの?」
ローガンが見つめ返してくる。「ごめん。ぼくは長いあいだ悲しみの中に閉じこもったまま、きみに寄り添おうとしなかった」
息がつまりそうになった。ローガンが素直に心を開けるのなら、わたしにだってできるはず。「本当は離婚なんてしたくない。あなたとのあいだに距離を感じるようになって、腹立ちまぎれに言っただけなの」
「ぼくだってそうだ」ローガンが額と額を合わせた。「じつはこの服を着た理由も、ぼくたちが最初に恋に落ちたときのことを思い出してほしかったからなんだ」
「おもしろいわね。わたしがこのドレスを着た理由は、前回のときは着られなかったからなの」胸の高鳴りを抑えながらそう言うと、ローガンの目がきらりと光った。
「できたのか?」
今度はわたしも涙をこらえずに答えた。「ちょうど4カ月よ」
たちまちローガンは満面の笑みを浮かべた。その笑顔はわたしの魂の奥深くまで届いた。幸せを、新たな始まりを象徴する笑顔だ。そう、これからは何もかもうまくいくのだ、と。
(fin)
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